鎌田先生

高校生の時の話だ。

僕は非常に数学が苦手であった。

数学だけではない、物理も地学も苦手であった。


数字を見るともう頭痛がするくらいには苦手で、「証明って何を証明するんだよ放っておいてやれよ」とか「勝手に点Pは動くなや」などといったセリフを素で吐いていた。

数学的な考え方をするのに全く向いていない。よく考えなくても自分は小学校の時に分数でコケてから立ち上がれていなかった。


だが、そんな自分でも数学が好きになった期間が一瞬だけあった。

高校時代の内2年間僕に数学を教えてくれた鎌田先生のおかげである。


鎌田先生は数学の先生だったのだが、小太りの物腰が柔らかい先生だった(確か年齢は当時50代前半だったと思う)


面倒見のいい先生で、授業中も僕のノートを見ては「ここはこういう考え方をするといいよ」や「ここの部分が違うね」と注釈を加えてくれたりした。


結論から言うと僕は鎌田先生のことが好きだった。

今考えるとその「好き」は恋愛感情に近いものだったのだろう。

いや、恋愛感情だったのかもしれない。


高校二年三学期。

最後の数学のテストの時は僕がせめて単位を落とさないよう四日間ずっと僕のために放課後残って数学を教えてくれた。(だが単位は落とした。ごめんなさい)


テスト前日の日、鎌田先生が「頑張ったね」と言っていちご牛乳を奢ってくれた。

僕は学校の自販機のいちご牛乳が大好きで毎日飲んでいたのだが、自分の息子、娘、家族の話をしている鎌田先生を見て大好きないちご牛乳が美味しくなかった。


結局鎌田先生に思いを伝えることもなかったが、朝電車で一緒になったときには胸がドキドキしたし、理解できなかったとはいえども、先生の授業を聞くのは楽しかったのだ。


きっとそれは恋していた。