よりなが

僕が小学校の時、同じマンションに住んでいた「よりなが」という子と仲が良かった。

 

彼はとても頭が良く、しかも見た目がかっこよかったのだ。それでいて女子からの告白は全スルー。小学校の時の僕にはそれがたまらなくかっこよく思えた。

そんな彼と仲が良かった自分をなんとなく誇りに思ったのを覚えている。

 

小学校生活の4年間ほどはずっと一緒にいたほどに仲が良かったのだが、なんとなくで近くの中学に進学した自分と違って教育ママの元で育った「よりなが」は私立の男子中高一貫校へと進んでいった。

 

それから三年。

 

中学で失恋とか、ポエム作成後朗読とか、そういう事を経験してすごい勢いで過ぎた中学生活の三年目、自分と小学校のときからの付き合いの悪友たちと話していたら

「よりながに会いたいな」と誰かが言った。

 

みんなが「会いたい!」「受験ないなんていいよな」と口々に言う中、唯一小学校卒業後に何回か遊んでいた自分は「よりなが」に対する心象はあまり良くなかった。

 

何回か遊んでいた時に存在していた自分の彼女の「えりか」とその友人の「りか」のことである。

中学二年生の時、「よりなが」は「りか」と付き合っていて、「りか」はダブルデートを計画していた。

近所の映画館で一緒にバイオハザードの映画を観る予定だった。

僕は「えりか」と楽しみにしていて、多分「りか」もそうだっただろう。

 

当日、「よりなが」が行なったのはドタキャンである。理由は「彼女とか、正直めんどい」

 

バイオハザードのアクションシーンで泣きじゃくる「りか」の横でコーラを啜って映画に集中できなかったのを覚えている。

「えりか」が「最低!!!!」って言ったのも覚えている。

 

「ああ、そういう理由か、最低だなぁ」と自分も思い、そこから「よりなが」をなんとなく遠ざけた。

 

 

 

そんなことがあったので気乗りしなかったのだが、「みんなと一緒なら楽しい気分になるだろう」と自分を叱咤し「よりなが」の待つイトーヨーカドーへ向かった。

「よりなが」は確かにいた。だがその隣には丸坊主の男が。

 

僕らは彼を知らなかった。皆一様に顔に疑問符が浮かんだ。

 

よりながは言った。

「この人、俺の彼氏。」

皆は驚いていたが、僕は頭の中で「あ〜〜。なるほどね〜〜…」と思っていた。

「りか」よりもその男性を選んだということなのだ。

そう思うとなんとなくいろんなものの合点がいった。

 

男同士ということもあってその男性を交えて遊んでもかなり楽しかった。ボーリングがめっちゃ上手いのだ。男同士の方が気も楽だよね。

 

男子校に進学した「よりなが」が同性を好きになることは決しておかしくないことだったと思う…のだが

 

帰り際、僕を「よりなが」は呼び出した。

そして開口一番、「まだえりかと付き合ってるの?」

 

『もう別れたよ。俺に彼女は早かったよ』

「良かった!」

 

嫌な予感がした。

 

「男に興味ない?」

 

『…ゴメン…ない…』

 

その時の「よりなが」のすごく悲しそうな顔を覚えている。

今思い返すと彼のことを全否定したような言い方だった。

 

同性を好きになっているのかも、と一度だけ思うことがこの先に待ち受けているのだが、その根幹にはやはり「よりなが」の存在があるのだ。